◆ かたくなるココロ2/2・でんわ ◆
   連載モノです。「かたくなるココロ1/2・きっぷ」をお読みで無い方はそちらからどうぞ・・・


 前、ワタシが使っていた電話番号は、毎日間違い電話がかかってきた。それは決まって同じ苗字宛ての間違い電話だった。どーやらこの電話番号の前のオーナー宛の電話らしい。それは、毎日毎日、一日に何本もかかって来た。

 その中でも特に多かったのは「タカシさん」という大学生宛だったので、ワタシは最初、ナンパや合コンでその「タカシさん」が前使っていた自分の電話番号(んで、現ワタシの電話番号)を語っているのかと思った。とんだナンパヤローだ。


 でも、間違い電話を受けているうちに、どーやらこの電話番号の前の持ち主は「タカシさん」の独り暮らしじゃなく、結構な大家族らいしコトがわかった。同じ苗字の色んな人宛に電話がかかって来るからだ。

 (ちゃんとした(?)一家の電話番号が何の連絡もナシに突然使われなくなった・・・夜逃げ?!)と思いつく頃にはもう間違い電話も2年目に入っていた。

 そんなある日、その電話はかかってきた。

 「○○さんのお宅ですか?」また、いつもの間違い電話だ。「いいえ、違います。」ワタシはつっけんどんに答えた。しかし相手はしつこくこの番号ではないかと聞いてくる。違うというと、今度は、その間違えの相手を知らないか、今は何処に住んでいるのかなどと更にしつこく訊いてきた。

 話しは違うが、オンナが独りで都会にいると、イロイロ怖い目に会う。後をつけられたりしたことも何度もあるし、スリもある。(ワタシがボケてるだけ?!)この時はまだなかったが、空き巣にも入られたことがある。(しかも給料袋は持って行かず、私の手帳やサイフやなんやかやが入っていた巾着だけ盗んで行ったのだ。)手紙を盗まれた事もあるし、イタズラ電話や電話でのしつこいキャッチセールスもしょっちゅうだ。(セールスついでにナンパってヤツまでいる!)そんな事もあって、ワタシは知らない人からの電話に結構警戒するようになっていた。

 更にその間違い電話を受けた時は、ちょうどキャッチホンで受信してしまっていて、オマケに待たせている相手は、わざわざ長距離から電話をかけてきてくれていた、という状況だったので、間違い電話がキモチ悪いのと、電話を切り替えたいので早く切ってしまいたいのとで、結構そっけなく「いいえ、ちがいます、知りません、分かりません」を繰り返していた。
すると、突然間違い電話の相手がすがる様に叫んだ。

 「悪いことしようとしてる訳じゃないんだよぉ!わざわざ鹿児島からかけてきてるんだよぅ!50年ぶりの同窓会なんだよぅぅ!それでこの名簿みながらかけてるんだよぉぅ!」

 声はおじいさんの声だった。切迫した声だった。

 それでもワタシはとっさのことであまり良い対応が出来ないまま、電話を切り替えてしまい、でも本命の電話の内容もほとんど耳に入って来なかった。

 二つの電話を切ってから、やっと正気に戻った。

 「何で、あんな風にしか受け答え出来なかったんだろ・・・・すっごい久しぶりの同窓会なのに・・・・田舎の方だと局番が同じだと住所も近いよな・・・・私の田舎だって昔はそうだったのに・・・・住所聞いても当たり前だよな・・・・本当に会いたかったんだろうな・・・・そうだよな。同じチガウって言うのでも、言い方ってモノがあったよな・・・・おじいさんの電話番号を聞いておいて、あとで何かわかったらかけますって言う事だって出来たのに・・・・これで二度とこの番号の人は同窓会に出席できなくなっちゃったんだろうか・・・・」

 後悔と悔しさと悲しさがぐるぐるぐるぐるワタシの中を駆け巡った。そして。


 (いつからだろ・・・)

 (いつからこんなに何かを警戒するようになったんだろ・・・)

 (いつからこんなにココロが硬くなってしまっていたんだろ・・・)

 ちょっとショックが抜けきらなくて、ちょうど中学時代の恩師に手紙を書く用事があって、その際、ワタシはこの話しの事を書いた。すると、美術教師である彼は、ラフなんだけどもすっごくキレイなシクラメンを葉書に書いて送ってくれた。

 ワタシはそのちょっとさみしそうな透明絵の具のにじみをみながら、泣いてしまった。


(・・・・・そう、あの時は「今度こそ怪訝なカオはすまい」「いつも柔軟なキモチで」って誓ったのになぁ・・・又やっちゃったなぁ・・・・ダメだなぁ、アタシは・・・・・)


 ワタシは「150円区間」の切符を見つめながら、渋谷の券売機の前で又後悔していた。


 都会に住んでると、どーもココロが硬くなってしまいます。


・・・・いやいや、トカイの所為にしちゃイカンよな・・・・・
◆ 改築記念 02月09日〜15日 1999 ◆