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ふぁいるでーた

香港。返還前の香港を想う。


通しNo .00029
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旅・せかい
喰いもの・せいかつ
せかい
香港(返還前)
〜のころ
信組職員2
すなふきん(前半)
女子大生
とき '87 9月
'92 7月-'92 10月
'96 3月
メルマガ配送日
 2002/03/27号


香港。返還前の香港を想う。


香港。返還前の香港(*1)を想う。

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香港。香港の人はスペースと戦ってる。

建物と屋台は狭い土地からぐんぐん天に向かって延びていく。

屋台は何段も何段も上へ上へと陳列を伸ばして行き、毎日がお酉様の様だ。

世も負けじ、と超高層ビルがじゃんじゃん立つ。エンピツみたいなしかくいノッポのビルが「香港」からどんどん延びる。
それらを建設中に支える竹の足場(*2)も天に向かってる。

それはまるで竹そのものが空に向かって突き刺さる様に延びていく様に、鉄筋でつくる足場とは違って、思い思いの長さで不揃いにびよんびよんと揺れながらお日様に向かって延びている。

そしてそうやって出来たそれぞれの建物に向かって、看板と洗濯物は直角につきささり、どんどん横に出っ張って行く。

香港では看板も、洗濯物も建物に沿って存在する余裕が無い。

看板はわずかなスペースの壁から、物干し竿は小さな窓からにょっきにょっきと延びて来て、往来にアーチをつくる。

まるで両側の建物から手が伸びて「ロンドン橋」をしてくれてる様に。

「ロンドン橋」を見上げると、その看板と洗濯物の網の目の上を、なぞる様にごうとでっかい飛行機が横切って行く。

その下では屋台のおっさんが食べ物をハサミで切っている。ちょきちょきちょきとブタの腸やら肉団子やらを切っている。

あのでっかい中華包丁も分厚いまな板もありゃしない。

ここでは、道ばたに、まるで腰掛ける様に屋台を置いて商売する。だがしかし、文字通り"お店を広げて"る余裕など、小販(*3)には無いのだ。ぢょきぢょきぢょき。

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香港。香港の人は急いでる。香港の街は狭い。

もしかしたら、土地が狭くなると流れる時間も短くなるんだろうか?

園内いっぱいにゆうゆうと周回するジェットコースターが中国大陸だとしたら、「香港」はジャングルジムの様に真四角に圧縮された、クレイジーマウスだ。

時間を早回ししたみたいにみんな急いでる。「香港」自体もそれに合わせてくるくるくると様変わりしてる。

きっとそれは香港が期限付きの土地だからじゃないだろうか。

みんな1997年に向かって逆算して生き急いでいる様な感じがする。勝負はあと何年と香港の全ての人にはカラータイマーが内蔵されている。

香港の人はエレベーターに乗ると乗った瞬間からカチカチカチと「閉」ボタンを押す。押し続ける。

香港の人はエスカレーターを下りる直前、あのわずかな平らな所を急いで歩く。歩かないと後ろからこづかれる。どんどんこづかれる。

そうして出来るだけスピーディに稼いで、1997年の「借家を追い出される日」に備えているのだ。

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香港。香港には無駄が無い。あるのはゴミだ。でもゴミにも無駄がない。

日本の人は日々収納と戦ってる。四季に合わせて衣替えをし、その荷物の収納に始終している。収納戦争だ。

香港の人はそんな無駄はしない。

衣替えの季節には道ばたにフトンや服が捨ててある。しまっておく余裕なんて、ここには何処にもないのだ。

香港の家庭ゴミは分別しない。そんな時間もスペースも無い。袋になんでもいっしょくたに入れて出す。

出されたゴミはゴミを分別する人が分別する。分別する人はそれを生業としている。だからその人達の為にも、リサイクル出来そうなものをより「ゴミ」として出した方がその人はありがたがるのだ。

だから香港の家庭ゴミはゴミであってゴミでない。

かつての香港の占領者、日本の人はティッシュとハンカチを持ち歩く。鼻はティッシュでかんで手はハンカチで拭く。

現在の香港の占領者(政治的には賃借者)、英国人はハンカチで鼻もかむし手も拭くし。

香港の人が持っているのは一見ポケットティッシュだけどティッシュじゃない。

ソレはナニかと訊ねたら、なんとそれは折り畳んでティッシュ状に詰まった紙ナフキンなのだ。

厚手の紙ナフキンなら濡れた手も拭けるし鼻もかめるし食事で汚れた手も口も拭えるし。もちろん、オシリだって拭えます。

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香港。香港の人たちは目と頭が良くて合理的。

いらない土産はいらないと言う。無駄な土産は無駄という。不当に高いモノは「何故こんな高いモノをあんな高い所で手に入れるのか」と疑問に思われる。

顔と腹が同じ。おべんちゃら、おあいそ、おていさい、ホンネとタテマエは大抵無し。

そんな事は無駄なのだ、真理はひとつ、という事を知っている。上に中国5000年のデータベースが内蔵されていて、上乗せで(中国)大陸よりも全然洗練された社会に生きている。

故に彼等はモノの本当の価値や価格を知っている。

だから香港の人に土産をあげるのは大変だ。

土産そのものだけでなく、それをどこでどんな値段で買ったかも評価されるから。

そしておよそ日本には、香港以上に良い品物が安い値段で売られていたためしは無いから。

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香港。香港と香港の人達は優れていて親分肌。

なので香港の人達より劣っている「日本"仔"」は「香港"人"」に奢ってもらう宿命にある。

だから本当は日本の土産なんて意味無いのかもしれない。

香港の勘定に「割り勘」は無いからいつもどっちが出すという事で大立ち回りをやらなければならない。

そして「日本"仔"」の上に女性で若輩者(*4)のワタシはいつもそれに破れ、香港人のイキオイに押され、見栄をはらせてもらえない。

だからご馳走してもらう度に自分のその身分を受け入れ、すまない気持ちを甘んじて受け入れなければならない。

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香港。香港ではおよそなんでも社会化されている。丁度巨大な独身寮の様なものだ。

香港にはクリーニング屋とは別に「洗濯屋」がある。決められた袋にどんなにぎゅうぎゅうに詰めても一袋いくらで洗濯してくれる。

洗濯物を洗濯袋に入れて朝出すと、只、洗って乾かしてその袋にまたぎゅうぎゅうと押し込まれた衣類が夕方帰ってくる。

安い飯屋が沢山ある。屋台も沢山ある。料理をするスペースも時間も惜しいとばかりに香港の人達はいつも外で食事をしている。

でもそれは日本の「外食」とは違う。香港の人達にも「外食」はある。一家でフンパツして外に食べに行く。それが「外食」。

でもそれとは別に外で食事を済ます事が多い。ふつーのごはんをふつーに只、外で食べる。いわば「中食」(なかしょく)だ。

日本の「中食」は冷凍食品だ。外で食べると栄養バランスがどうとかお母さんの味がどうとか主婦が世間様から文句を言われるからだ。

それでお母さんは今日もこそこそと台所で袋を開けてチンしている。お父さんはおフクロの味がどうとか文句を言うばかり。

朝、香港の屋台街を歩いていると、ランドセルとアタッシュケースをそれぞれ足元に置いた親子が網目の向こうで一緒にマカロニ(*5)をすすってる。

本当に「香港」では何でも社会化されている。社会化されてないのは親の死に目を取る事位だろう。

何故ならば、中国人の親は死ぬ間際まで遺産の行方を決定しないと言うからだ。(だから中国人は親を大切にすると聞いた)(*6)

でも香港ではどうなんだろう。少し前まで香港では、同居しているお年寄りが寝るスペースが無かったという。(*7)

昼間働かないお年寄りは昼間家で寝て、夜は公園などで時間をつぶしたと聞く。勿論、夜は昼間働く人が身体を休めているから。

そんな状況で、一体どうやって親の死に水を取ったのだろうか。

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香港。香港は返還される。香港は誰のものでもない、「借り」そめの地だ。

イギリスにしても、香港に住んでる中国人にしても、どこか叩けばホコリの出る様な借り物の土地だ。みんなが「香港」に間借りして生きている。

「香港」は誰のモノでもないし、誰も「香港」の所有者ではない。

だから、

香港には全てをがぶ飲み込する包容力がある。全てが集まり全てが去って行く事を許してる。

だから、

香港は流動的で何もかもがハッキリしない。お金でさえ、この土地ではふたつの銀行が発券(*8)している。

だから、

オマワリと衛生局(*9)は庶民の敵だ。

あのフッ切れててごちゃごちゃした「香港」を、縛り、整理し、管理し、そつなく収めようなんて不可能だ。

だいたい、

誰にその権利があるというのだ。

そもそも、

香港の存在自体がおよそ「秩序」なんてあり得ない。混沌と雑然こそが「香港」と言うのだろう。

でも、

それでもなんとか治まっている「香港」は、実は「香港」という土地自体に不思議な統率力があって、そこに住む人々は案外モラリスト達の固まりなのかもしれない。

だってオマワリも衛生局の人も割かし勤勉だが、彼等は何者をも「取り締まる事」になんて成功なんてしちゃいないのだ。

平たく言えば、なんのかんの言って「香港」は、みんなから大切にされてるんじゃなかろうか。一見、使い捨てみたいに見えるけど。

「香港」の自治はみんなに任されていて、誰にも任されてない。それでも、いや、それで「香港」は今日もウマい事マワってる。

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香港。香港は巨大な独身寮と言うよりは大きな長屋の様なものなのかもしれない。

みんなぶつくさ言いながらもそこで生活している。持ち家を望みながらも狭い部屋に一家がぎゅうぎゅうで住んでいる。

帰る故郷(とこ)などない、とばかりに。

ある者は去り、ある者は入ってくる。

返還を前に、香港のスタァ達はこぞってアメリカやカナダに移民した。ワタシの知り合いの香港人は「no choice」だと言った。

時にそんな長屋を疎ましいと思い、時に愛おしいと想う。

喧嘩や小競り合いもあるだろう、でも、みんなそこに身を寄せ合って生きている。その為のルールは守る。

小綺麗な通りにブランドモノを並べてスカしてみても、

今日も、「香港」からは様々な生活臭がはみ出て、いや、だだ漏れになっている。

それは、

とりもなおさず、

みんなが、

そこで、

「自由」にまみれて

生きている証なのだ、

と思う。

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(*1)返還前の香港

まず、だいぶ好き勝手「香港」について書いてしまいましたが、それは香港と言えども九龍のほんの一部の事を中心に香港返還前のつもりで書いています。

それから、ワタシは返還前の香港しか知りません。だから、「香港」を想うとき、それは必然的に返還前の香港になってしまうのです。

ですが、返還前の香港の事(いわゆる「九七問題」に触れる様なこと)、はやっぱり返還前には言っちゃいけない様な気がしてました。いや、今でも言ってはいけないのかもしれません。香港の人達、ごめんなさい。

でも、香港を語る時、「期限付きの土地である」という事は避けて通れない事です。

それで今回は、あれから(変換から)5年目という事もあって言ってしまいました。ごめんなさい。(本文へもどる)


(*2)竹の足場

香港ではビル工事などの時の建設現場の足場を竹で組みます。近代的な超高層ビルでもそうです。

中国から竹を沢山運んで来て、その道のエキスパートが素早く組むのです。

最近では鉄パイプの足場も大分増えた様ですが、依然として香港では竹の足場が主流の様です。

出来かけたビルから竹が伸びてて面白いです。(本文へもどる)


(*3)小販

可動式の屋台。だいたい無許可営業で、一昔いや、二昔位前までは日本にも(っていうかワタシの地元には)同じ様な屋台を引いたオジサンやオバサンが、

新聞紙をくるんと丸めた中にぶっとい焼きそばをつっこんで一本箸をつっさして売っていたものです。

(そうそう現役のコロッケ屋台もいますけど(^-^)/よければバックナンバー『屋台のおもひで』をご覧下さいm(_ _)m)

今、日本で主流になっている?リアカー式の屋台よりもかなり小さくて(丁度先の焼きそば屋やコロッケ屋のサイズなんですが)小回りの利く屋台です。

又、「小販」に対して「大牌[木當]」又は「熟食[木當]」と呼ばれる屋台もありまして、

こちらの方は縁日の屋台をゴージャスにした様な感じの物から、もう殆どお店の様な厨房もちゃんとしている屋台の事を差します。

所定の認可された市場や路上、空き地などに据え付け型で営業しています。(*6)のマカロニの屋台なんかがソレに当たります。(本文へもどる)


(*4)「日本"仔"」の上に女性で若輩者女性で若輩者

そう、香港は一応英国。英国と言えばジェントルメン。

と言う事で香港の男性はレディ・ファーストです。若い人程そういう傾向にあり、男女が一緒に食事をしたら、恋人でもなんでもなくてもまず男性は女性に勘定なんかさせません。

させるのはヒモか詐欺師です。

そして香港の人は中国人。だから先人を敬い弱い者や子どもを擁護します。先輩と後輩が食事をしたらまず先輩がオゴります。

特定の関係(職場とかの)で無くてもだいたい集まりの中で一番の年長者がさりげなく支払う様です。

なので同じ様な境遇の者同士が外で食事すると、こっちが払うのいやこっちだのとお中元の押したり引いたりの様な事が起こりますが、それは中元に比べてなっから(かなり)パワフルです。

「日本"仔"」は「日本"人"」で無い訳ですから当然悪いことば。詳しくはこちら  (本文へもどる)


(*5)マカロニ

香港のポピュラーな朝ご飯の一つ、マカロニのスープ。

詳しくは『香港の屋台その2』をご覧下さい。(本文へもどる)


(*6)中国人の親は死ぬ間際まで遺産の行方を決定しない

これは旅の師匠が中国の人から聞いたのを又聞きなので不確かな未確認情報です。違ってたらごめんなさいm(_ _)m。(本文へもどる)


(*7)お年寄りが寝るスペースが無かった

香港の庶民は長い間とても貧しい生活をしていました。(日本でもかつてはそうでしたが)女も子どもも貴重な労働力でみんな昼夜無く働いていた様です(多分、香港の銀行はそのなごりでキャッシュカードが24時間使えるのでは無いでしょうか)。

その上香港では究極的に土地が無いので、こういう事があった様です。(本文へもどる)


(*8)ふたつの銀行がお金を発券

*香港上海[さんずい+はこがまえに惟]豊銀行(HongKong Shanghai Banking Corporation)

*香港渣打銀行(Standard chartered Bank)

の二行が港幣(香港のお金、通貨のこと)を発券していましたが、その後1994年、変換を前に

*中國銀行(Bank of China)(香港支店)

も加わり三行で発券する様になりました。

ちなみに香港上海銀行は名前はこうですが、イギリスの銀行、中國銀行は文字通り中国(中華人民共和国)直営の銀行、

香港島ではこの両銀行のモダンな超高層ビルが張り合う様にそびえ建っています。

その様はまるでドラゴンとライオンがトイメンでにらみ合っている、当時の香港の旗の図案を具体化した様です。建物の中も外もスゴいので、建築物好きの御仁は必見?です。

*中國銀行は2001年10月に中国系資本の銀行10以上が全て統合・合併、中銀香港となり、中国銀行(香港)有限公司として新たに開業、従来の中國銀行の発券業務を受け継いでいるそうです。(本文へもどる)


(*9)オマワリと衛生局

香港のオマワリは庶民から嫌われている。香港映画を観るとオマワリをおちょっくってるシーンとかあって面白いです(^-^)

衛生局が敵なのは勿論、市や屋台をしょっぴくから。よろしければ→『香港の屋台その3』  (本文へもどる)

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