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ふぁいるでーた

トラジャン〜死ぬために生きる人々〜


通しNo .00050
〜なはなし
どたばた・とほほ
考えた事・熱く主張
〜のはなし
旅・せかい
喰いもの・せいかつ
せかい
インドネシア
〜のころ
すなふきん(前半)
とき '92 7月-'92 10月
メルマガ配送日
 2002/05/15号


トラジャン〜死ぬために生きる人々〜

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最近、日本でもやっとR12とかR16とか
インフルエンザの名前みたいなのが普及して来た。
子どもに限らず、にんげには見るとコーフンしたり
正常な判断が狂ったりするものがある。
そしてそれを繰り返し見るとナニかがズレて来る、と思う。
2002/ 5/14 5:33(書き直し)
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ワタシと旅の師匠はインドネシア、スラウェジ島の山奥にある「タナ・トラジャ」という村を訪れた。葬式を見るためだ。

日本では「タナ・トラジャ」と言ってもピンと来ないと思うが、「トアルコ・トラジャ・コーヒー」の原産地と言えば「ああナルホド」と思われる方も多いと思う。

「タナ・トラジャ」は、その「トアルコ・トラジャ・コーヒー」のシンボルマークにもなっている、ひっくり返した舟を屋根に掲げた家屋で知られる地方である。

その「タナ・トラジャ」の地方の人達(トラジャン)は「死ぬために生きる」と言っても良いくらい、葬式にこだわり、時間もお金もかける。

ワタシ達が見学させて頂いた葬式は、ハイ・カースト(位が高い人)の葬式だったせいか、その葬式をする為に、遺族はなんと2年間も貯金し(その間、遺体はミイラにして家の中に保存するそうだ)まるまる4日4晩かけて葬儀(というか祭りだ)をし、更に埋葬の為にもう一日を費やしていた。

葬儀は、山奥の森の中にお祭り広場の様な大掛かりな施設を設けて行われ、遺族(というかパーティーにお招きされた人々)は仮設住宅(というか、花見の時の屋台のほったて小屋よりも簡素なもの)をいくつも建てて行われる。

雰囲気としては、ちょっと大掛かりな町内会の盆踊りとか、運動会とかといったモノを思い浮かべてもらえればだいぶ近いと思う。

ナゼ5日もかけて葬儀をやるかというと、もちろんゴーカに、というコトもあるのだが、5日位やってないと、遠くの親戚が連絡を聞いてからお供え物やら野宿やらの準備をして、この山奥の斎場までやってこれない、という実質的な事情もあるかららしかった。

親戚の人達は、大抵村ぐるみ、村人総出でもってお供え物の牛や豚と共に、ぞろぞろと歩いてやって来る。そして各村ごとで仮設住宅に野宿しながらその長い葬儀に参加するのだ。

観光客はめったに来ることは無いらしく、ワタシが見学させてもらった葬式も4日間のうち白人のオジサマがガイドを伴って只一人来たが、遺族に砂糖だか塩だかの袋を渡してすぐ帰ってしまった。

しかしワタシ達は最初からこのものスゴイ葬式を一部始終見てやろうという気構えで来た・・・のだからいいのだが、なんとワタシはこの山奥の葬儀場に着くなり足を捻挫してしまい、いやがおうでも密着でこの葬式を見学させてもらう事になったのだ。

足の怪我は思ったより酷く動けないし、なにしろ皆葬儀の為だけにこの山奥に来ている訳だから食料を調達する術も無い。

結局ワタシ達はある村(ランテパオという村だった様に思うが定かではない)から来ている人達の仮説住宅に寄せてもらい、食べ物をめぐんでもらいしながら最初の3日間を過ごさせてもらった。

4日目の朝、その集落の人達は自分たちの村に帰って行った。その際、彼等はワタシ達も一緒に下山する様に、と強く勧めてくれた。彼等の顔は皆一様に真剣で、どうしてそうした方が良いのか、いや、そうしなければならないのか、何か決定的な理由を知っている様に見えた。

しかし愚かな旅人は葬式を最後まで見据えるという野望をどうしても捨てられず、居残ってしまった。

ランテパオ(?)の人達が帰ってしまたワタシ達は、とたんに全てを失った。山を下りるまでのたった一日、しかしその一日は本当に長く辛く色々な事があったが今回は割愛する。

でもまぁ、しかし、すったもんだしながらもワタシ等はなんとか葬式の全行程を見る事が出来たのだ。文化人類学の学者だってこんな体験をした人は少ないだろう。

旅行者から旅行者へ伝え聞く、「旅の強者」の人達から比べたら、こんな体験はまだまだたいした事ないけれど、でもこれは小さいけどワタシの勲章だ。もっとクサく言ったら旅人の胸の内にある、ココロのパスポートに一つ判をもらったみたいな経験だ。

でもその「なかみ」を克明にリポートするのはとても大変なので、ここでは特に印象に残った事を一つだけ書くコトにする。・・・と、考えるとやっぱり「ポトン」は外せない。「あの」葬式で尤も忘れられない儀式の一つだ。

コレは少々グロいが文字通り、牛の首を「ポトン」と落とす事を言う。お供え物の牛は、時間になるとお祭り広場に連れて行かれ、華々しく「ポトン」されていた。牛の首刈り自体が一つの見せ物に、そしてその葬式の規模になっているのだ。

豚を殺す時もこのことばを使うみたいだったが、豚の場合は牛とは対照的に裏の人目につかない藪の中で、斎場に持ってこられた状態、つまり四肢を縛られ宙づり状態で仰向けのまま下に下ろされ、棒きれかなんかで心臓を突いて殺していた。もちろん、豚の肉も各村に振る舞われる。

豚は隠、牛は陽の「ポトン」ってところか。

しかし、「ポトン」と言っても実際は牛の首は太く、人々が持つナタの様な大きなカマの様な刃物はそれに対してあまりにも貧弱で、とても「ポトン」と落ちるモノではなく、イロイロとグロい工夫をしつつ落とす。

首を落とされた牛はその場で解体され各村に配られる。各村人はその牛の破片で煮炊きをし、葬式の期間中の食事にするのだ。

つまり牛は神と死者にささげる供物として捧げられ、葬儀を盛り上げるパフォーマンスとして「ポトン」され、そして最後には葬儀に列席した客人をもてなすためその胃袋に収まる、というワケだ。

・・・他人の所のしきたりをどうこう言うのは趣味ではないが、まぁでも、最もグロいなぁ、と思ってしまったのはこの「ポトン」、なんと人間の首の代わりらしいのだ。

本によると、トラジャの人達は20世紀初めまで人間の首刈りをしていて、それを侵略してきたオランダ人のカソリック教徒達に禁止されたのだと言う。

その際、只首刈りを禁止するのでは無く、代わりに牛の首を落とす様になったのだそうだ。

これはワタシの推測だけれど、きっとオランダ人達は、ただただ「ポトン」を禁止すると、自分たちの首が「ポトン」とやられてしまうと感じたのに違いない。

ワタシがそう考えるのは、紛れもなくワタシ自身が肌でひしとそう感じたからだ。

まず、トラジャンにとって外国人、特にワタシの様な極東のそれも女性というのはものすごくめずらしいらしく、時に「ワタシ」の存在は葬式の為の様々な出し物よりもウケて大きな人垣を作ってしまう位だった。

トイレに行くのにも沢山の人にもみくちゃにされた。うとうとしてはっと目覚めると何十もの好奇の目に取り囲まれていた事もあった。

そんな時は心底ぞぞっとした。

この葬式はよっぽど力のあるおウチの葬式なのだろう、毎日毎日沢山の牛が「ポトン」されていく。

中には暴れる牛もあった。血を吹き出しながら、それでも何度も何度も、まるで首を切られる為に立ち上がっているかの様に立ち上がって来る牛もいた。首が切れているのに走り出す牛までも。

人々は牛の血を見る度に文字通り「血沸き肉踊」り、老いも若きも男も女もそれこそ大人も子どもも老人も、歓喜の雄叫びを上げながら仮設住宅の中を、外を走る牛にそって走り回ったりしていた。

その騒ぎの中、(ああ、次はワタシが喰べられるのかも)と覚悟したくらい、そこは異常なテンションにつつまれていた。

実際、ここでワタシが「ポトン」されてここにお集まりの皆々様方にその肉や内臓を振る舞われたとしても、当時のワタシには何のしがらみも繋がりも無く、ここには電話線も無線機も無く、そうなっても自分以外には全く誰にも不都合が無いと思われた。

そんな文字通りの狂喜乱舞の中、自分自身もおかしくなって行った。

何気なく話しかける師匠に対して乱暴に受け答えしたり、いつも今、正に嵐を噴かんとしてる猫のごとく、すごく気が立ってしまっていた。

毎日毎日、何頭もの牛の血しぶきを見ているうち、ワタシの気持ちは普通ではいられなくなってしまった様だ。それは少なからず師匠も同じだった。

そんな危うい4日間を過ごし、5日目の埋葬は更に山奥に入る為、ワタシは師匠が竹で作ってくれた松葉杖をつきつつ山を下りた。

天に還る(帰る?)為、高い山の岩肌をくり抜いてそこに遺体を安置するというハイ・カーストの葬儀の終焉を、残念ながらワタシは見学出来なかったが我が旅の師匠は見届けた。

その間、ワタシはランテパオという村(町)の「ロスメン」と呼ばれる安宿のベッドの上にいた・・・
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その後のおはなしは一転してとほほ話『魅惑の果実。』へとつづきます。
*旅ギャラリー*(クリックすると大きな絵が見られます。)

牛の横顔
牛の横顔



牛を見る子ども
牛を見る子ども



年輪が出ているおばあちゃん
年輪が出ているおばあちゃん



ピアスのきれいなおばあさん
ピアスのきれいなおばあさん



貴族のお兄さん
貴族のお兄ちゃん


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