*「風をあつめて。」は、猫ちはる。が日々書き溜めた、旅の文章やエッセイをメルマガで送りながらウェッブでも公開しているサイトです。
著作権は「猫ちはる。」にあります。全ての文章、イラスト、カット、写真などは全て無断転載禁止です。


トップページ > 文章 > トラスを渡る女達(かぜ)


メルマガ登録

下のボックスにメールアドレスを入れて登録ボタンを押して下さい。
まぐまぐ・ID21973


ふぁいるでーた

トラスを渡る女達(かぜ)


通しNo .00063
〜なはなし
ひび・よしなし事
感想・思った事
〜のはなし
家族・ひと
せかい
生家・故郷じぶん世界
〜のころ
るんぺん
すごく最近
とき 記載しない
メルマガ配送日
 2002/06/17号


トラスを渡る女達(かぜ)

今日、いや、お昼(午前零時)過ぎたから昨日か、ワタシがおしっこを垂れ流して倒れたのでビビッた彼がワタシを実家に連れて帰った。

家に着くと父は夜勤で母が居て「どぉしたん、突然、何、ちゃあちゃん、ノイローゼ?!」と出迎えてくれた。

「なんかショック受けちゃったみたいで」と彼が答えると母は、

「そぉなん?私も今ショックなんだよ!もぉ昨日はやーんなっちゃってさ、きっのおさぁ、お父さん、殺しちゃおうかと思ったよ!」

「でもさぁ、刑務所入っちゃったらちはる。と妹子(*1)がかわいそーだからさ、殺さなかったけど。本当にぶっ殺してやりたくなっちゃったよ。よっぽど昨日はちゃあちゃん家(ち)行こうと思ったんだけどさ・・・・・・・」

「ちゃあちゃんが来てくれて丁度良かった。」

と、母はヘロヘロの娘をまんまそこらへほったまま、彼とワタシに様々な父の悪事をしゃべり出した。

ワタシは、意識はモーローとしてて無抵抗主義に只うっ転がされていたが、耳は生きていた。意識が混濁している精神病患者に、聞ける訳がなかろうと看護士がその患者の悪口を言ったりすると、

患者はきちんとそれを聞いていて覚えていているから注意しなけりゃならないと看護学校の時教わった。なるほど、身体は動かないが耳は聞こえるよ。

ワタシはそんな風にぼんやりと父の人でなしぶりを聞いていたが頭には濃い霧がかかっていて、時々、(自分が)どっか行けばいいかなぁとかかすかに思うだけで別段何も考えていなかった、というか耳を過ぎていくことばにもそれ以外の事にも何も反応が無く、ワタシは只その白いもやもやに全て支配されていた。

やがて妹が帰って来て、やっぱり何の連絡も無しに突然やって来た姉を見て「あれ、どーしたの?」と問い、彼が「ついにマイっちゃいました」と答えると妹は、

「そぉなん?あったしもさー、今マイっちゃってるんだよー、もうやんなっちゃっててさー、よっぽど昨日はちゃあちゃん家(ち)いこーと思ってたんさ」

と言って「ゴメン、ちょっと本屋行ってくるね」と又出かけてしまった。

-------
一年前の今日(2001.06.17)、ワタシは結婚した。披露宴は別の日に、彼の実家が商売屋だから少々見栄を張って都内のホテルの中にある、料理の美味しいレストランでした。

披露宴と言えどもレストランはふつーの営業と同じく客が来てから料理を作るからあまり大規模なことは出来なくて、宴は彼の親戚を中心にごくこじんまりとしたものだった。(支払いの方はワタシ等にとっては"Too much money."だったが)

ワタシは、義理のある人には結婚の報告をしたが、その他は聞かれない限り夫帯者だという事は言わない。

「結婚した」と口にしたとたん、自分に対する認識が、ステレオタイプの「嫁」といっしょくたにされるのも嫌だったし、そもそもセックスレスの友達夫婦だから結婚の自覚が少なく、自分が既婚者だという了解が希薄なのである。

親しい友達はそれを知っているから、たまに会ったりするとワタシの顔を見るなり「おい、ちはる。その後旦那とセックスしたかぁ?」がご挨拶だ。

両親を含む親戚縁者はどうも未だにワタシと婚姻制度が馴染まない様で、会うと必ず「大丈夫なんかい?まだ続いてるんかい?」と心配する。

そうなると必ず最後は「まぁ、そのうち子どもができちゃうから(なんとかなるだろう)」という結論に落ち着くが、ワタシはココロの中で(これで出来たらあたしゃマリア様だよ)と思うが黙っている。

その一年前のこじんまりした結婚披露宴で、数少ないワタシ方の一番高いお席がふたっつ、ぽっかりと開いていた。

何しろ少ない席数の中の高砂前、六卓中の1/3が、しかも一番良いお席が空席なのだから目立つ目立つ。

その上そこは母子連れが来るはずだったから、ワタシ等(イヴ夫婦)で前日、レストランの営業が終わった真夜中にやって来て、風船やらぬいぐるみやらでそのお席を飾り付けていたから余計に目立ってしまった。

空席はワタシの友達が娘さんを連れて「御来賓」の予定だった。

彼女の結婚式でワタシはやさしそうなお相手を見、大げさでなく本当に五時間近くも涙が止まらず、彼女のたっての希望で親戚の集合写真にも参加し、披露宴では友人代表のスピーチまでおおせつかった。

しかし「友人代表」と言っても招待された「友人」は、ワタシともう一人、中学からの友達の女の子が一人いるだけだったけど。

-------
二十歳前の頃、ワタシは地元の信用組合、その頃の彼女の目標は女優だったかお笑い芸人だったか、ともかく世に出る事を目指して上京(つっても住まいは小岩だったが)、

その頃の彼女は食事障害やら辛い恋やらでこころも体もついでに歯も(*2)ぼろっぼろで、

いつかは真夜中に「今死のうと思って手首を切った」と電話して来て、ワタシは翌朝職員旅行だったがそれをすっぽかして夢中で夜の17号を車でかっとばした(*3)

住所をたよりに彼女の家に着いてみると、彼女はサビオ一枚手首に貼って寝ぼけ眼でドアを開け、不機嫌だった。二人でコタツに寝転がって彼女の機嫌はついに回復せず、

朝になると「今日田舎から友達が来るから」とさっさと追い出されてしまった。その時来た友達というのがもう片方の彼女の結婚式での友人招待客である。

ワタシは一睡もせずに車を走らせ、疲れと元来の方向音痴とでこれも大げさでは無く実に20時間以上も都内と都内近郊をぐるぐるぐるぐる、やっとアパートへ帰った。

その後も、彼女はワタシによく手紙を書いて来てくれた。泊まりに来てもらった事も何度かあった。しかし上京してからの彼女は何故かワタシに腹を立てる事が多く、

「なんでアナタはそんなにブスなのに自分の事がそんなに美人と思ってるの」

だの、

「よくそんな太った体でいられるわね、なんでそんなに太っててブスなのに自信満々なのよ」

とよく、(ワタシには)よく解らない怒りをぶつけた。

他の事、例えば成績のこととかでもワタシはしばしば彼女以外の人にもそんな風な誤解をされるのだが、別に自分は自分のこと美人とも思ってないし自信満々って訳でもない。

只、多分人が気にする程、そういう事が大して気にならないだけなのだ。

かつての、いやつい最近までのワタシは、母の愛を勝ち得る事以外は、本当にどうでもよい二次的、三次的な欲求だったのだと思う。

それでそれ以外のことは、本人にとっては多分、どうだっていーことで、たいした問題でもなく、だいたい見てくれの事に限って言えば、ワタシは子どもの頃何度か変質者につけ狙われたりした経験があるから、実は一度も「綺麗になりたい」とか「もっと女の子らしくなりたい」とか思ったことが無かったのだ。

そういったワタシの様子、まるで化粧しなかったり全くダイエットしようともしない所とか、いつも合ってないお下がりの服しか着てなくてサエなくて野暮ったい所とか、

それでいて自分の容姿のことをくよくよ病んだり整形したいと思っていないという事が、彼女にとっては「自信満々だからそうしないのだ」と思われてしまうのだった。

彼女は不思議な人で、ワタシの家(は当時なくて父宅と母宅を泊まり歩ってたからその時は母の家だった)に泊まりに来た時など、上機嫌で話をして仲良くやってたのに、翌朝、何の書置きもなく居なくなってったり、

その時ワタシの母のカーデガンを無断で着ていってそのまま真っ黒になるまで彼女の部屋着になってたり、何年か後に彼女の部屋に行った時ワタシにそれを見られても「このカーディガン、ちはる。ちゃんにもらったの、まだずっと着てるよぉ、コレ!」とちょっとオコった様に吐き捨てる様に言ったり、

あの母宅に泊まった日、隣で寝ているワタシの寝顔が腹の底から憎らしかったと言ったりした。

(すると彼女はワタシの寝顔を見ている内ムショーに腹が立って、部屋にあった母のカーデガンを着て出てってしまったという事なのか???)

そんな彼女との20年近くの付き合いの中で、ワタシは時には酷いと思ったり悲しかったり淋しかったりしたけれども、不思議と恨む気も嫌だという気も起きず、ワタシはずっと彼女が好きだった。

手紙や電話で、家のローンが心配だとか旦那がバカだとか今大手銀行の派遣で働いてるのよスゴイでしょとか、今はピアニスト目指しててやっぱり私って才能あるけどプロになるのは難しいとか、アナタはなんでそんなにぐうたらしてんだとか男と暮らすなとか言ってる彼女を想うと、

いつまでも苦しみから解放されない彼女を感じてこころが苦しかった。一生懸命手紙を書いた。ハナシを聞いた。

だから結婚式をすっぽかされた時も本当に参ってしまったけれど、不思議と腹は立たず、ましてや彼女を嫌いになどならず、只、只々ワタシは悲しかった。

最初は、まだ小さい娘さんに何か起きたのでは、と心配していたのだが、夜やっと繋がった電話で、そうでは無いという事が、彼女は確実に意図的に、彼女の意思で、ワタシの結婚式をすっぽかしたのだと言う事を知った。

それからワタシがあんまり泣いているので彼が気の毒に思ったのと、彼も子ども用の料理やテーブルセッティングを特別に用意したことなどから彼自身もかなり腹が立ってたらしい、

二次会の店に行く途中、今度は彼が彼女のところへ電話をかけたのだが、電話の向こうの彼女は先程のワタシとの電話同様謝りもせず、どころか完璧逆切れで何故かモーレツに怒ってて、酷くわめき散らされた上に

「あんたいくつ?ふーん、じゃあ(彼が若いから)そりゃ怒るわ!」とバカにされたそうだ。

めでたい日に罵詈雑言を浴びせられた挙句、自分が結婚式をすっぽかしておきながらそれに対して文句を言うのはお前が若いからだとワカゾー扱いされた新郎は、

「何が彼女をそんなに怒らせてしまっているのだろう」と尚も泣くワタシに「もう、あんな奴とは金輪際、付き合うな!」と新婦を叱り付けた。

--------
ワタシは何故か友達関係でこういうことを言われる事が多い。男関係の事でそんな事を言われた事はあまりないのだが、

こと友達づきあいの事ではいつも彼やごく親しい友人達や妹から、「そんな奴、付き合わなきゃいいのに」「もう、ほっとけ、関わるな」「相手が又何か言って来ても、もう取りあっちゃ駄目!」などと言われる。

でもどうしたってワタシには、そんな酷い奴とはもう付き合うなとか関わるなとか縁切りしろ、とか言われても、そういう事を言う人の気持ちの方がよくわからない。

ワタシは人間関係において、たまに距離をおいたり休んだりすることはあっても、ずっと友達でこころの中ではその人の事を想っているし、

誤解があればそれを解けばいいと思ってしまうし、きっといつか分かり合えると思ってしまうし、繋がっていたいと思ってしまう。

それで沢山解決策を考えるけど、自分でその解決策を考えてもどうも埒があかない時、ワタシの相談相手は大抵妹になる。何故なら彼女はワタシをよく知っていて、ワタシの友人と接点が無く、ワタシよりマトモな人だからだ。

妹は一通り姉のハナシを聞いて色々注意点や解決策を述べてくれるが、大抵の結論としては同じ事を言う様だ。

「なんで同じ人に何度も同じ様に酷い目にあわされるのか、ちゃあちゃんはあまりにもそういうのが多い」

「ふつーさ、最初に嫌な思いしたらそれでもうツキアイ方変えるよ、だってそんなの、その後もっと嫌な目にあうのが目に見えてるじゃん」

「わざわざ災難の中に飛び込んでく様な事すんだもん。なんで懲りないかなー」

「最初、あ、って思ったら、そういう人とはどっかで必ず又何かあるんだよ。その時こじれるんだったらもっと早目に、こじれる前に切らなきゃ。」

「私はあとでいざこざいざこざするのヤだからさ、後でもっと酷い目に合わない為だって思って気持ちの整理をつけてさ、それでもうどんなにその時自分が悪く思われても誤解があっても、もう一切弁解もしないで離れちゃうよ。」

「なんでさー、そんなに相手に求めるわけ?彼がいればもーいーじゃん、ちゃあちゃんには彼がいるんだからさ、それでいいや、って思ってさ、いーじゃん、もう。」

「だいたいね、友情なんてそんな育たないって、そんな友達だ、なんて思うほーがおかしいし、相手にそれを求めるのが悪い」

しかし、ワタシはこーゆー事を言われても大抵はピンと来ない。

この様に、彼女(妹)はその都度、色々と言い方を変え手を変え品を変えケースに応じて同じ結論をアドバイスし続けてくれるが、それでも同じ事を繰り返すワタシに呆れて、そのうち話も聞いてくれなくなってしまうかもしれない。

そういうのは変だって他の人からもよく言われるんだけど、ワタシは自分から人を切るって事が出来ない。

相手から決定的に去られてしまった場合は流石に自分から連絡は取らないけれど、いつでもワタシは相手が連絡して来てくれるのを待っている。

だって友達なんだから、人間関係ってそーゆーのはお互い様だろうし、そんな事言われたらワタシこそ他人に迷惑かけっぱなしの人生だし、それを思うと何かされても大抵の事は自分を振り返るとしょうがないかってなっちゃうし、

あと多分、自分はいつも片思いなんだろう。だから相手との関係を自分では断てないんだろう、と思う。

ワタシは大抵のことでは人を嫌いにならないし、これもよく変わってるって言われるけど、よしんば相手の事嫌いでも、それとその人との付き合いを止める、という事とは繋がってかないのだ。

-------
母は、尚もエキサイトし続けて父のイカレタ話をしている。

父は、娘のワタシがゆーのもどうかと思うが本当に本当に薄情で自分勝手で我侭で駄目押しに病的だ(ってか病気だろう)。

前にも書いたが父は酷いマザコンで、祖母と寝食を共にし、大恋愛結婚のハズなのに結婚後は何故か祖母と結託して母やワタシ等姉妹をあらん限りのテを使っていびり抜き、暴力もふるい、

その上ワタシ等とは別の家庭をつくってて、でもその事はもちろん内緒で母が悪妻だと親戚縁者に言ってまわっててんやわんやで離婚して、

ワタシには「お母さんとは離婚できるけど今の法律では子どもとは離縁できないんだって、だから少しカネを送ってやるからこれで縁切りしてくれ」だの「お前の留守中に別の家を買って引っ越して、お前がどこにも帰れなくしてやる!」だの黒い事言ってたくせに

愛人の、自分が買ってやったマンションに行ったら別の男が居た時などは泣きながらワタシに電話してきたり、

祖母が呆けたとたん「何でお前は俺と結婚してくれないんだ!」と母にいばって復縁を迫り、(実はその前に既に3人の女性に求婚してフラれているのだ)、

それでダメならばと今度は泣き落とし。殆どストーカーまがいに24時間母につきまとい、母はその父のしつこさ(というか病的な執念深さ)とそれによるご近所迷惑の手前もあってかなり苦しい精神状態になってしまい、

でもまぁ、いくらその時はそうやって疲労困憊してたとはいえ、娘に「(これだけ反対しても)父と再婚するなら、今度何が起きても母の事は面倒みないからね、それでもいいなら父と再婚して。本当によく考えてね」と言われても尚、戻ってしまった母も母だが、

まぁそうやって父は母と二度目の結婚をしてその母に祖母の面倒を見させておいて感謝も全くしない。やさしい一言すらない。それどころか再婚と同時にすぐに以前の父に戻ってしまい母のやることなすこと文句を言って怒鳴り散らし、母の悪口ばかり言っている。

おまけにそのお呆け様の祖母に父は苛立って、かつてはツマを夫婦の部屋へおきざりにして一緒に寝ていた程仲良しだった"お母さん"(祖母の事。未だに父は祖母の事をそう呼ぶ)に暴力をふるう様になってしまって祖母は今施設暮らしなんだけど、

今回の喧嘩?では、父は母に「お母さん(祖母)を連れて帰って来てお前に面倒を見さしてやるかんな!」だの、

「携帯なんて贅沢だ、ヤメロっ!いつも遊んでやがってるくせに!!」だの(母は現在定年退職をして失業保険をもらいながら家事をきちんとし、家庭菜園までやって家計を助けている。)、

挙句の果てに母の若い頃からの趣味である習い事(社交ダンス)の準備をする母に「お前が男に抱きついてるのを見てやるッ!」と母の車を追って自分の車で尾行したり、

で、信号で止まった時、母の携帯に電話をかけて来て「俺がこうやって尾行してんの、嫌なんデショ?」と言ったりしたそうだ。

ちなみに母はその時、「別について来てもいいよ。良い機会だから見学してったらいいがね」と言ったそうだが「中に入ってくる勇気はなかったんじゃない?」という事で、結局お教室までは入って来なかったらしい。

同居の妹は最近、そんな母に「だから再婚しなきゃよかったのに!あんなに反対したんにさ」と冷たく言うだけでとりあってくれないとかで、母は相当たまっていたのだろう、

父のほんとーにしょーもない話はエンドレスにつづく。

それをぼんやりと聞くともなく通過させている内、白い深い霞がかかっていた様なワタシの頭の中は、少しづつ機能が回復して来て、

(お母さんかわいそうに。本当に、だから再婚なんてしてやんなきゃ良かったのに。)

(なーんで再婚してやったかねー)

(おとーさんのどうしょうもないのなんてもう散々解って、解りきってるのにさ。)

などと感想なぞ作り出す様になっていた。

そして次の瞬間、ハッと白い霧が一瞬で晴れて、

(そうか、この気持ちか!)

と思った。こういう気持ちで、ワタシの周りの人たちは、今迄友達づきあいでめげたり悩んだりしているワタシに「もうその人とは関わるのはよしたら」と言ってくれてたのか。

確かに、どうしょうもない事ってあるもんな。おとーさんの場合はおとーさんが酷い奴で悪いとハッキリしてるけど、人に限らず「関係」もさ、相性というか、努力じゃない所というか、どうしょうもないとこってあるもんな。

そして、ぽつりと

「おとーさん、死ねばいーのにね」

と久しぶりにワタシの喉はことばをつくった。

でも久しぶりだったから上手く発声されなくて間の通訳に彼が入った。

すると母は

「そんなこと言うもんじゃないよ」

と言った。何度もぶっ殺してやりたい、いつか殺しちゃいそうだって言ってたのに。ぶっ殺してやりたいはいいけど死ねばいいのには駄目なのか、それとも母が言うのは良いけどワタシは言っちゃ駄目なのか、

「おとーさん、死なないかね」

と言うと母は今度はこう言った。

「死ぬわけないがね!殺さなきゃ死なないよ、百まで生きるよ!あの人は!!」

-------
母の提案でお夕飯は「何か美味しいものを」食べに行く事になった。

妹の帰りを待ってからだから、もう八時前だった。

「こないだぶっつけられちゃってさ、後ろからお釜ほられちゃって。疲れるとやっぱ痛いけど仕事休むのやだからさ、(医者は)行かなくても大丈夫と思うよ」

と大丈夫なんだか大丈夫じゃないんだか頚椎が心配される妹の代車に、傷心で小心の女三人と、それをのらりくらりと水の様に傍観し、空気の様に上手く溶け込んでいる彼とで車に乗り込んだ。

最初の店は時間が時間なだけに駐車場にヤン車と白い頭の若人が数人いて、各々口々に「なんかコワいよ、コワいよ」と車も停めずにUターンしてしまい、又別の店を目指した。

大きな橋を渡ると、下の黒い広がりにまばらな夜景が、本当にルビーや琥珀みたいに光っていた。

それはマドラスの灯であり、Methvenの灯であり、前橋の灯だった。(*4)

おかげでワタシはエアチケットを買わずに済んだ。置手紙の必要も無くなった。彼はその手紙を読む機会を失った。

彼はこんな女三人と関わって暮らしている。それはどんな気持ちなんだろう。少なくてもこの一年は退屈はしなかったみたいだ。

------
──なつの夜、車を走らせるといつもわくわくする。

更に実家の女と一緒なら、ちょっとそこまで、の道のりでも、

それは冴えたロードムービーの様な旅になる。

-------  -------  -------

(*1)妹子
妹の仮名。  (*1)にもどる

(*2)歯もぼろっぼろ
恐らく今思うと摂食障害の為の吐き戻し(自分で食べた物を自分で吐きだしてしまう)だと思う。胃酸で歯が溶けてしまうのだ。  (*2)にもどる

(*3)17号を車でかっとばした
本当にせっぱ詰まった状況が予測された場合は119番に電話するべき。  (*3)にもどる

(*4)マドラスの灯であり、Methvenの灯であり、前橋の灯だった。
マドラスの灯については『黄泉を走る列車』をご参照下さい。

Methvenはニュージーランドの都市。かつて妹が長期滞在をしていた所。前橋は以前、母が若い頃、前橋で夜遊びをした話しを聞いて印象的だった為、母の青春時代を象徴して。  (*4)にもどる

このお話しをおススメしてね!→




 おススメ!へ  一覧へもどる


*バックナンバーについてはデータがたまる迄は旧旧サイト旧旧サイトのミラーをご活用下さい。


このページ内の全ての画像、文章、コンテンツなどは無断使用しないで下さい。
使用する場合は、管理者に必ず事前にメールで是非を聞いて下さい。